2025年12月26日

医師の働き方改革(2024年4月施行)
制度開始後に見えてきた現実的課題
2024年4月から本格施行された「医師の働き方改革」。長時間労働の是正や医師の健康確保を目的とした重要な改革ですが、半年以上が経過し、 地域医療においては深刻な課題が顕在化しています。
本記事では、制度開始後に見えてきた「医師不足」や「当直体制」の実態と、今後求められる対応策について解説します。
医師の働き方改革とは: 2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制を適用し、医師の健康確保と医療提供体制の持続可能性を両立させるための制度改革です。
▼ 記事の要点
- 地域医療への打撃:大学病院からの派遣医引き上げにより、地方病院で診療制限が発生している。
- 当直体制の限界:時間外規制により、従来の宿日直体制が維持できず、救急受け入れ縮小のリスクがある。
- 今後の対策:タスク・シフトやICT活用など、限られたリソースでの再構築が急務。
1. 最大の影響は「地域医療における医師不足」
最も大きな影響として挙げられるのが、医師不足の問題です。
これまで日本の地域医療は、大学病院が地方の中小病院へ医師を派遣することでギリギリ成り立っていました。しかし、働き方改革による 「労働時間管理の厳格化」を背景に、この構造が大きく揺らいでいます。
現場で起きていること:
大学病院側が自院の診療体制(労働時間遵守)を維持するため、派遣医を引き上げる動きが加速しています。
その結果、地方病院では以下のような事態を余儀なくされています。
- 診療科の縮小・閉鎖
- 外来および入院の制限
- 救急医療や産科・小児科など、不採算・医師不足部門の撤退
これは単なる病院経営の問題にとどまらず、地域住民の医療アクセスそのものが脅かされかねない深刻な状況です。
2. 宿日直・当直体制の見直しが急務
もう一つの喫緊の課題が、宿日直や当直体制の見直しです。
時間外労働の上限規制(A水準・B水準・C水準等)により、これまで慣例的に行われてきた 「長時間の当直」や「連続勤務」が制度上認められなくなりました。
これにより、多くの医療機関が対応に追われています。
- 夜間救急の受け入れ体制を縮小する
- 当直回数を減らすために常勤医の増員を検討する
- 一部の医療機能を外部医療機関へ委託する
しかし、現実には医師の採用市場は売り手市場であり、地方や中小病院での増員は容易ではありません。結果として、 「守りたくても守れない」というジレンマに陥るケースも少なくありません。
よくある誤解:働き方改革=医療の質低下?
結論:働き方改革は医療の質を下げる制度ではありません。
問題は制度そのものではなく、旧来の医療提供体制のまま「当直・救急・外来・入院」を抱え続けることで生じる構造的ひずみにあります。
つまり、今後は「時間を守る」だけでは足りず、業務の再設計(役割分担・人員配置・ICT)が成否を分けます。
3. 制度を前提とした「現実的な対応」とは
医師の健康や持続可能な働き方を守るという制度の趣旨は極めて重要であり、後戻りするべきではありません。
一方で、制度設計と現場の医療提供体制との間には、依然として大きなギャップが存在しています。
今後は、単に「時間を守る」だけでなく、限られたリソースで医療を維持するための構造改革が不可欠です。 ① タスク・シフト/シェアの推進 医師以外の医療職種(看護師、薬剤師、事務クラーク等)へ業務を移管し、医師の負担を軽減する。 ② ICT活用の推進 遠隔読影やAI問診、勤怠管理システムの導入により、業務効率を向上させる。 ③ 地域医療全体での機能分担 一つの病院ですべてを完結させるのではなく、地域全体で役割分担を再構築する。
結論: 医師の働き方改革は避けられない前提であり、今後は医療機関ごとの経営判断と地域連携の巧拙が、医療提供体制の明暗を分けます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 地方病院で派遣医が減った場合、何から見直すべきですか?
A. 救急・当直・外来・入院のうち「維持すべき機能」を優先順位付けし、地域内で役割分担できる体制を検討することが第一歩です。
Q2. 宿日直許可があれば当直の時間外をゼロにできますか?
A. 宿日直許可は万能ではありません。実態(業務の密度・頻度)により評価が変わるため、当直業務の整理と運用ルール整備が重要です。
Q3. 医師採用が難しい場合の現実解は?
A. タスク・シフト、ICT導入、外部連携(当直・救急の補完)を組み合わせて「医師が担うべき仕事」を絞る設計が現実的です。
Q4. 働き方改革対応で経営コストは増えますか?
A. 短期的には増える可能性があります。ただし、業務再設計が進むと、人件費の“増分”ではなく“配置最適化”として回収できる余地もあります。
医療機関の経営判断が問われています
医師の働き方改革は、単なる労務管理の問題ではなく、日本の医療体制そのものの再設計を迫る改革です。
制度を「守る」ことと、医療を「守る」ことをいかに両立させるか――今まさに、医療機関の経営判断が問われています。
▼ 働き方改革対応・労務管理のご相談はこちら
当事務所では、36協定の見直しなど、医療機関特有の労務課題を支援しています。